型をつくる

成長や拡張の限界が誰の眼にも明らかになった現代。ふと立ち止まり、これまでのやり方を省みている人は少なくないと存じます。ヨガやマインドフルネス、ミニマリストなど、禅をルーツに持つものに対し向けられる関心の高まりも、先述したことを背景に、これまでと違う出口に通ずる道を求める表れかも知れません。
 
テルミンは弾いている時に「テルミン顔」になります。テルミンは楽器の側に音の高さの基準がなく、拠り所のない空間でピッチをとるため、演奏がとても難しい。鳴らしている間は一時も気が抜けず、高度の集中と技術、そして予測が要求されるので、自然と仏頂面になってしまい、揶揄して「テルミン顔」と言われます。
 
自由を阻むものを取り除き、どこまでも自分を解放するアプローチに限界を感じている人は多いのではと存じています。心は解き放たれるどころか、自由が広がるほどに不安が募り、苛立ちが収まらないと実感している人は少なくないでしょう。針の穴に糸を通すとか、写経をするなど、目の前の「重い」課題に取り組むことで感覚をあえて狭いフィルターに通し、結果として雑音が気にならなくなる。何かに集中することで、心が落ちつくことは、多くの人が経験しているでしょう。
 
テルミンは100年前に発明されましたが、真に求められるのはストレスフルな現代かもしれません。禅的なアプローチとは自分を型にはめることであり、不自由の先に自由を見ています。それを教えてくれたのが、私の場合テルミンでした。
 
自由な楽器テルミンは茶道や弓道のように型がいる。それを窮屈だと言う人もいるでしょうが、そこに自由や希望を見出そうとする人は、日本だけなく、全世界で増えている実感があります。我々のアプローチも自由な楽器テルミンで、自由に音楽をやるのではありません。それを不自由と感じるのも自由。自由は不自由の先にあると考えています。

NHK Worldのfacebookページにて、2019年9月14日神戸で実施された世界記録更新への挑戦の模様のビデオをご覧いただけます。
https://www.facebook.com/nhkworld/videos/328880901248159/